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↑「それHTML5で出来るよ」とそそのかされた照英が泣きながらFlashで実装し直す様子

GIZMODOの「もうとっとと世の中からFlashなんて消え去ればいい...の声を上げるキャンペーンが始動中」って記事について。HTML5 vs Flashの争いは、Web技術者、特にFlash使いの間では1年ほど前に語りつくされてるトピックなので、「それぞれ得意、不得意があるので、どっちも必要」でFAだと思っていたのだけどナー、という印象であります。余裕のよっちゃんおならプーです。

…なんてね。虚勢ですよ。実際は戦々恐々。もちろんFlashとHTML5の共存は可能でしょうが、Flashプレイヤーのシェアが仮に70%程度まで落ち込んだら、とたんにFlashの魅力は失われます。そうなってしまえば後はあっという間。かつてFlashがShockwaveを追い落としたように、いつ自分たちが過去の技術認定されるかビクビクしつつも、「でもActionScript3はJavaScriptと似てるから、最悪なんとかなるだろう…」なんて自分を奮い立たせ、ある者はJS,HTML5,CSS3の勉強をし、またある者はAIRに活路を見出したりして、コツコツとFlashのスキルを磨いている。それが、多くのFlash使いの現状ではないでしょうか。少なくとも僕はそうです。AIR楽しいですし。

Flashが今やちょっとした問題性のある技術であることに、異論はありません。僕はChromeをメインブラウザとして利用していますが、Flashが原因でタブがクラッシュすることは割と多いです。月2,3回はあるかな。またActionScript自体、JavaScriptに比べると動作は遅いと言われているようです。またこれまでFlashが担ってきた役割が、HTML5やJSで代替可能になってきたのも事実です。

今Flash不要論が盛り上がるというのは、やはりiPhoneへのFlash非搭載宣言と、Adobeがモバイル向けFlashプレイヤーのサポートを打ち切る発表をしたためだと思います。まぁ後者は、スマホのスペックも今後上がってくるので、普通のFlashプレイヤーで対応できると見越しての事…だと良いなーと思っているのですが。こういった状況の背景に、スマホの隆盛とPCの凋落、つまり「ふつーの人にとってインターネットってこの程度でいいよね」って空気があることも重要です。そんな事ないんだけどなぁ。大画面でのインターネットってめっちゃ楽しいんだけどなぁ。

で。

Flash不要を謳う方たちの殺し文句として、「それ、HTML5でも出来るよ!」ってのがあります。映像だったり、インタラクティブな操作感だったり。また、「Flashに出来てHTML5に出来ないこと、その逆」とかもよく語られます。ただ僕は、そういうのは、Flashの重要性のせいぜい半分じゃないかなーと思ったりもしています。

では、残りの半分は何か。それはFlashプレイヤーです。非常に高い普及率を誇り、下位互換性もバッチリ。OS、ブラウザに依存することもほとんど無く、ActionScriptさえ覚えれば容易に様々な事ができます。(HTML5でも出来るよってのは、実際にはHTML5とCSS3とjQueryとPHPで出来るよ!って意味だったりするのでorz) そしてなにより、Flashプレイヤーは「Adobeがほぼ単独で、仕様を決められる」というメリットがあります。僕はこれが、Flash最大の強みじゃないかなーと思っています。

考えてみてください。Flashプレイヤーがflvを導入したのが2003年。それからHTML5がマルチメディア関連タグを策定するのに、実に5年以上の年月が経っています。なぜなら、ブラウザは様々なデベロッパがリリースしているため、標準化にW3Cという合議制の業界団体が中心とならざるを得ないからです。ココらへん、以前書いたAppleとMicrosoftの関係に似ているかもしれません。たくさんの企業、団体の思惑を汲み取らねばならないW3Cの歩みは、どうしたって遅くなります。汎用的なOSでなければならないWindowsの様なものです。

またそうやってW3Cによって策定された標準仕様も、ブラウザによって挙動がマチマチだったりします。や、動けばまだいい方ですね。ブラウザ開発の手法自体が先進化しているので、IE vs Netscapeのような泥仕合はもう無いだろうと期待はしますが、現に今だって「このタグはChromeとFirefoxでは動くけどIEとSleipnirとOperaでは動きません」みたいな事がザラにあります。自分の作ったWebページがクライアントのPCで正しく表示されずに焦った経験の無いWebデザイナーはいないんじゃないでしょうか。

その点、FlashはAdobe様がサクっと仕様を決定できます。AppleがOSXを発表したように、AdobeがActionScript3を発表した時、泣いたFlash使いは多いでしょう。しかしその恩恵は多大なものでした。暴君がいなければ、新しい未来は開かれません。そしてコンピューター史におけるAppleがまさに暴君であったように、インターネット内でFlashは、強引に次のインターネット体験を提案する暴君だったのです。

暴君が切り開いた荒野を民衆が地ならしし、やがてかつての英雄に対して「クソみたいな王を引きずり下ろせ!」と叫ぶのは、歴史で何度も何度も繰り返されてきたことです。暴君は荒野が無ければ君臨できないのです。アイシールド21でドンは、「王者は定期的に虎を殺してみせねばならない」と言いましたが、まさにアレです。今インターネットでは、W3Cが長い長い合議の果てに、やっと次の数年を支える技術の標準化に漕ぎ着けました。Adobeが開拓した荒野を舗装することに成功したのです。

Flashが死んだ時、では、その次の数年はどうなるのでしょうか?今インターネットは、Appleの功績で「モバイル」分野に、豊かな荒野が発見されました。今から数年はその荒野の開拓がなされるでしょう。でも、その次は?3D、AR、そして今後出てくる新しいテクノロジーは、モバイル端末の狭いウィンドウでしか生きられないのでしょうか。クリエイターは、その作業の半分をブラウザ毎の挙動の調整に費やし続けねばならないのでしょうか。僕はそれは、ちょっと貧しい未来だと思います。

Flashができること。Flashだからできること。それは、映像やリッチなインターフェースではなく、スピーディーにWebの次を模索していくことです。Flashにとって辛い時期が続くかもしれませんが、今後のFlashにも、僕は期待したいと思います。(AIRの勉強もするけどね!)