2011年07月05日

HUNTER×HUNTER 28巻

hunter28

後半ネタバレを含みます。ココからネタバレって書くので、気になる人は読まないでください。

僕が今一番ジャンプで楽しみにしてるのはHUNTER×HUNTERです。心理描写と画力がすごいレベルで一致してる。26巻の「ずるい!ずるいぞちくしょう!! なんでそいつばっかり!!!」も少年誌じゃ書いちゃいけない台詞だったけど、28巻の「人間の底すらない悪意を・・・・・・!!」の時の会長の顔とか超怖い。そして「悪意」に振られたルビは「進化」。PULUTOの、「完璧な人工知能は悪意を持つ」とかナウシカの「命は光だ!」「否!命は闇の中瞬くひかりだ!」といった価値観にも通じる、日本謹製ストーリーテリングの伝統を加速させる華麗なルビワーク。オリジナルの価値観ではなく伝統に則った、すごいハイレベルな「無難」。28巻の二番目の見所はこの会長のコマで決定。

怖いといえば、パームも相変わらず怖い。ホタルの木の後のパチ切れたパームがもちろん一番怖いんだけど、今回も超怖い。このキャラは冨樫さんが結婚したからこそ書けるんだと思う。幽々白書ではこういう女性は出てこなかった。さばけたイイ女ばっかりで、幽助の母ちゃんと父ちゃんがラーメン屋台の幽助を見てる時の会話が、最も「リアル」な女性描写だった(2番目は海藤とその彼女?の4コマ)んだけど、今にして思えば俄然童貞臭い。パームは完全に非童貞の女性観。話が通じる気がしない。今回のパームはともかく、ゴンとデートするパームのスイーツwっぷり、ホタルの木の後の爆発っぷりとその後の冷静さの取り戻し方は凄過ぎると思う。

全体的に、ココ最近のHUNTER×HUNTERはポエミーだ。ストーリーテラー目線の説明的ともいえるト書きが目立つ。もちろんこれもすごく効果的に使われてる。全然漫画の敗北とかそういう事じゃない。脚本は散文的というよりむしろ詩的に書くべしと言われるんだけど、この形式をとる事で、わざとらしい説明キャラを立てるという漫画にありがちな制約から解き放たれて、物語が、絵が自由にのびのびと展開してる。さらに、説明を説明として独立させる事で、漫画としてじゃなく、一枚の絵画として表現するって方法も取れるようになる。会長×メルエム戦前半の、「敵への惜しみなき賞賛」ページとか、「この上ない至高!極上の歓び!!」ページとか。脚本がポエミーに書かれるのは、監督のイメージを喚起する事が脚本家の仕事だからで、そういう意味で冨樫さんはきっとまず文章を書くタイプなのかなと思う。絵と文章の頭を使い分けつつ、その二つが華麗に同居してるように感じる。

---------------------------------ココからネタバレ---------------------------------

で、僕が28巻で一番興味深かったのが、会長の奥の手が「貧者の薔薇」だったこと。千手カノン零の掌よりも、独裁小国家御用達の、量産可能な爆弾のほうが威力が上なんて。そんなに社会は強いのか。ダイの大冒険の「黒の結晶」は、「魔界ですら恐れられた魔力を吸う爆弾」という設定で、その威力の説得力を担保してたけど、「貧者の薔薇」は「のべ250を越える国や地域でその10倍の花を咲かせ512万人の命を〜」とか「11万人」とか「八割以上の」とか「数十万発の種」とか、数字の羅列で説得力を担保するという、ちょっと安い方法をとってる。この安さこそが、「人と蟻でどこが違うのか」ってところに繋がるのかもしれない。ひょっとしたら冨樫さんは、書いてるうちにガチでそこにぶち当たって、そのために、ある種贖罪の様にメルエムをどんどん強くするしかなくて、結果その悩みをそのままぶちまける形で、その説得力を貧者の薔薇や会長の死に様の描写に掛けたのではなかろうか。真に怖いのは民衆(=社会)である、というのは、七人の侍でも描かれたテーマだ。

---------------------------------ネタバレココまで---------------------------------

もしそれが事実なら、冨樫さんはものすごく身を削ってこの漫画を描いてるなーと思う。誤解を恐れず言えば、ここまで突き詰めないといられない人が、なぜ少年誌、しかもJUMPで描くのかというのは、ちょっと興味深い。少年誌より青年誌の方が上と言うのではなく、単純にこの価値観の深度は、より青年誌向きではなかろうかという疑念だ。会長の最後のコマやピトーに抱きかかえられるメルエムの絵の強さは、ひょっとすると助け出されたグリフィスレベルだし、「ずるいぞ!なんでそいつばっかり!」は「僕、いい子だったろ…?」に匹敵する正直さだ。

これはきっと、冨樫さんの作家としての性格なのだろう。伏線よりも話のスピードで層を作る。言葉と絵を分離させる事が出来るからこそのスタイルかもしれない。ベルセルクも寄生獣も、そういう風には描かれていない。プロットを練り上げるのではなく、湧き上がる言葉に時に振り回されながら、なんとか着地出来る地点を探していく。その結果生まれるものは、なんとなくだけど、やっぱり少年誌っぽいものな気がする。ミスター青年誌であるところの浦沢直樹みたく、「なんちゃって最後まで計算済みですよポーズ」をとる様な姑息さが、時に有効だったりする青年誌には、この多感で繊細な冨樫スタイルは合わない様に思う。


と言うわけで、長熱くなりましたがHUNTER×HUNTER28巻でした。29巻は来月8月4日発売らしいです。ゴンさん登場が楽しみです。

 HUNTER×HUNTER 28 (ジャンプコミックス)


sarustar at 23:33│Comments(0)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Clip to Evernote 本、マンガ、音楽 




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